9,日中激突

 2005年10月に、日中中間線に近い東シナ海の春暁(日本名・白樺)・断橋(楠)の両天然ガス田で、本格的な採掘を一方的に開始した中国は、その後も日本政府からの度重なる抗議を無視して、さらなる開発を推進し続けていた。
 一部では、すでに中国本土への海底パイプラインも完成し、本格的なガス供給ももはや時間の問題と考えられていた。

 ガス田が海底部分で、日本側の排他的経済水域(EEZ)内にまで繋がっている可能性が高いことから、この行為は、日本の資源を国ぐるみで窃盗する犯罪に他ならなかったが、共同開発の申し入れなどにも生返事しか帰ってこず、日本政府としても手を打ちあぐねているのが現状だった。

 一方、切迫するエネルギー需要に対処するために、中国はこの資源確保計画に躊躇や遠慮などをしている余裕は一切なかった。それどころか、この計画に横槍を入れてくる日本側を、今後、永遠に組み伏す方策はないか模索し始めていたのである。
 問題の根本は、両国間で白黒の決着が着かないまま、暫定的に設けられている海上の国境線とでも言うべき日中中間線の引き方にあると中国側が考えたのは当然の帰結だった。

 そして、この中間線の基点となる陸上部分の島嶼として、常に立ちはだかる日本領の尖閣諸島は、中国側からすれば、じつに目障りな存在でもあった。
 それもあって、中国側は、1971年に周辺海域で海底資源が確認されて以来度々、これまで触れたことすらなかった尖閣諸島の領有権を主張するようになったのである。

 そして2008年X月X日……中国人民解放軍の手によって、起こるべくして、尖閣諸島が電撃的に不法占拠されてしまったのである。

 この暴挙を自衛隊が許してしまった背景には、2004年の中国原潜による日本領海侵犯事件の際、日本政府及び自衛隊が、毅然とした態度で、原潜を拿捕なり強制寄港なり出来なかったことがあった。
 この対応能力を確認した中国は、今回、故障した海軍艦艇が漂流しているのを救出・防衛するという名目で、それに随伴するような形で複数の戦闘艦を尖閣諸島の領海に侵入。日本政府・自衛隊が対応に苦慮している隙に、一気に特殊部隊による上陸と占拠を果たしたのだ。

 これに対して、現在自衛隊は、海上警備行動よりも一段階上の防衛出動待機命令を受けて、周辺海域に多数の艦艇・航空機を展開。防衛出動が決定されるのも時間の問題だろう。

 だが、未確認情報によれば、すでに中国側は次の作戦に着手している模様だ。
 先島諸島西方の海域では、人民解放軍海軍の艦艇多数が、尖閣諸島ではなく、その南方に向けて航行中だという。

 宮古島では現在、今回の事態に対処するための前線司令部を移設中で、隣接する下地島空港にも臨時の航空基地が設営されつつある。中国はここを押さえることで、自衛隊の反撃をかわそうとしているのではないかと、軍事筋などは憶測している。