――ポスポリタ。
騎士団によって国内の治安を維持しているこの国に、
最大の危機が迫ろうとしていた。
リィズ
リィズ

プロイセンが我がポスポリタに向けて、軍を進行させてきただと!?

目を見開いたのは、まだあどけなさをどこか残した少女。
しかし、彼女こそが、このポスポリタ騎士団の騎士団長である
リィズ・エルドバルトその人である。
騎士A
騎士A

はっ! 国境警備隊の通報によると、我々騎士団の三倍の規模はあると……!

騎士B
騎士B

三倍!? 無理だ! 我々の軍備などでは、プロイセンに到底太刀打ち出来ないに決まっている!

リィズ
リィズ

ええいっ! 狼狽えるな!! 我々はポスポリタを守る誇り高き騎士団! それが狼狽えてどうする!?

騎士B
騎士B

しかし……!

騎士A
騎士A

リィズ殿、我々が最強の騎士団とはいえども、三倍以上の敵を前にしてはとても……

リィズ
リィズ

戦う前から弱気でどうする!? お前たちに、騎士の誇りはないのか!?

だが幾ら彼女が激高しようと、騎士達の心に芽生えた絶望をぬぐい去ることは不可能……。
リィズ
リィズ

でぇぇぇぇーい! 向こうがその気ならば、叩き斬ってくれるわ! 皆の者! 剣を持てぇっ!

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モフモフ!(騎士団長どの!)

彼らの間を割る巨躯。背の高い騎士団の中でも、
飛び抜けて人間離れしたその巨影の正体は、正真正銘の熊であった。
リィズ
リィズ

おぉ、ヴォイテッカーか! お前もすぐに、戦闘の準備をするのだ!

彼の名はヴォイテッカー。
幼少時に親熊を失くし、騎士団に拾われて育てられた彼は、
人語は喋れないが立派なポスポリタ騎士団の一員である。
野生に劣らぬ立派な熊でありながら、その愛くるしい風貌と、
のんびりと愛嬌のある仕草、優しい瞳が国民に大人気。それでいて、戦いとあれば勇猛果敢。
ポスポリタ騎士団はおろか、全国民に愛され、
自慢される人気者が、熊騎士ヴォイテッカーなのだ。
ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モフモモフ!(プロイセン軍は強力にして強大!)

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モモモフモフモモフ(真正面から立ち向かっては我らでは太刀打ちできますまい)

端から見れば、モフモフとしか話せないヴォイテッカーの言葉を、
騎士団の面々は理解することができない。
だが、唯一団長のリィズだけは、彼の言葉を理解していると言われていた。
静まりかえった会議室で、二人のやり取りを固唾をのんで見守る騎士団の面々。
ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モッフモモンフ……モンモモフ!(ここは涙をのんで一旦兵を引き……他国からの援軍と共にプロイセン軍と戦いましょう!)

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モッフモフモモンガ!(耐え忍ぶ事もまた騎士道なり!)

リィズ
リィズ

なるほど! たしかにお前の言う通りだ。さすがだな、ヴォイテッカー。お前こそ騎士の鏡だ!

騎士B
騎士B

リィズ殿! ヴォイテッカー殿は一体、どのような事を語っておられるのですか!?

それまで固唾を呑んでいた騎士達が、リィズの元に集まる。
リィズ
リィズ

諸君、心して訊くがいい……

リィズ
リィズ

彼は、私にこう語ってくれた! こんな腰抜け共には、愛想がつきたぜ! 俺は一匹でもプロイセン軍と戦うと!

騎士達
騎士達

おおお――っ!?

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モフッ!?(えぇ!?)

リィズ
リィズ

ヴォイテッカーもその通りだ! といっている!

ヴォイテッカーの言葉を、微塵も理解してない状態で語り出すリィズに、
彼も思わず鳴き声がもれる。
ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モッフ! モモフ!(違います! そうじゃなくて!)

リィズ
リィズ

俺一匹でも……やってやる!

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モンモフモフモフ!?(待って待って! 私は戦略的撤退をですね!?)

リィズ
リィズ

プロイセンの奴らをちぎっては投げちぎっては投げ

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モッフ! モッフ! モモンフ!(違います! ほら×! ×! 間違いですって!)

リィズ
リィズ

最後はクロスチョップでとどめだ!

騎士B
騎士B

クロスチョップですとっ!?

騎士A
騎士A

おおっ、なんという勇ましさ……!!

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モッフ! モッフ! モモンフ!(違うんですって! ×! ばつ! 間違いなんですって!)

リィズ
リィズ

俺について来い! プロイセンの腰抜け共など、俺の手で壊滅してくれる!

騎士達
騎士達

おおお――っ!?

リィズ
リィズ

よく言ってくれたぞヴォイテッカー!

リィズ
リィズ

今こそ徹底抗戦の時! 我々騎士団の誇りをプロイセン共に示すのだ!

間違いを主張して、身振り手振りで×印をつくるものの、
尽く間違って伝わってしまい苦悩するヴォイテッカー。
リィズ
リィズ

感謝するヴォイテッカー、お前こそが騎士の中の騎士!ここに居る誰よりも騎士道を理解している!

リィズ
リィズ

これで我々の結束は盤石なものになったぞ!

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モフモフ! モフモフモフ!(あああ、なんで通じないんですか! 撤退しようっていってるんですって!)

リィズ
リィズ

よーし! それでこそ我らポスポリタの騎士だ! 俺は心から嬉しい! とヴォイテッカーも喜んでいるぞ!

ヴォイテッカー
ヴォイテッカー

モフモフゥゥゥゥゥ!(ちっがぁぁぅぅぅっ!)

騎士A
騎士A

おおっ、ヴォイテッカー殿の雄叫びだー!

騎士B
騎士B

なんだか俺も、段々とやる気が漲って来たぞぉっ!!うぉぉぉ――――っっ!

騎士A
騎士A

私もだっ! うぉぉぉぉ――――――っ!!

リィズ
リィズ

ええい! 私も負けるものかー! うぉぉぉ―――!

リィズを筆頭にして、完全に熱狂する騎士達。
かくしてポスポリタの街は、ヴォイテッカーの絶叫空しく、
戦火に包まれるのであった。