イタリアーナの総帥たるアミルカル・ドーチェリーニは、
自身の執務室にて誰にはばかる事なく哄笑する。
同盟国である皇国とプロセインが快進撃を続けているとの吉報がもたらされ、
彼女は自国の展望も明るいと感じていたのだ。
アミルカル
アミルカル

はっはっは! 愉快、愉快! 両国には今後とも大いに奮闘してもらいたいものじゃな! はっはっは!

アミルカル
アミルカル

ふぅ~……んむっ……しかし、かすかに胸の奥に引っかかる何かがあるのぅ

現状に何ら問題はない。同盟国の励みにより、
自国にもいくらかの益がもたらされるであろう情勢なのだから。
そう考えた若き総帥の脳裏に、一つの事実が駆け巡る。
アミルカル
アミルカル

皇国とプロセインが、奮闘しておる。ならば我がイタリアーナも奮い立つべきではないか?

今この瞬間に至って、ようやく形を得たその発想。
アミルカル自身にとっても、イタリアーナにとっても、
まさしく青天の霹靂と呼べる物であった。
アミルカル
アミルカル

我が軍も進軍して成果を挙げねば! このままでは栄えあるイタリアーナの存在感が薄まるというもの!

セバスティア
セバスティア

す、素晴らしい着眼点ですの! 総帥のご慧眼、もはやどのように形容すべきか……セバスは言葉を知りません!

総帥の片腕であり、イタリアーナ軍の将軍であるセバスティア。
彼女は総帥に対する畏怖と敬愛と感激を一気に胸に湧かせ、その身を震わせる。
忠臣の反応に気を良くしたアミルカルは、
ふふんと胸を張ってさらに思考を押し進めていく。
アミルカル
アミルカル

では、具体的にどこを攻めるべきかのぅ? いや……待て。待つのじゃ、アミル

アミルカル
アミルカル

進軍や遠征。それすなわち遠方に赴くと言う事! 戦地にて常に美味い食事にありつけるかどうか。それが何よりの問題じゃ!

アミルカル
アミルカル

嫌じゃぞ! パスタにもデザートにも事欠くような事態は!うむ、見えた! 吾輩がまず成すべき最優先事項が!

アミルカル
アミルカル

セバスよ! 用意しやすく、かつ美味いパスタとデザートを開発するのじゃ! 全力で、早急に、つつがなくな!

アミルカル
アミルカル

戦地でもここと変わらぬパスタとデザートが食せるようになったその時! 我がイタリアーナの進撃が始まるのじゃ!

セバスティア
セバスティア

仰せのままに!

セバスティアは己が主の言葉に深い感銘を受けていた。
例え、どれほど強力な火器が揃おうとも!
例え、どれほど強固な防御網を構築しようとも!
兵が飢えていては、その性能を十二分に発揮出来ない。
否! 兵の腹がただ満たされているだけでは、手落ちである!
美味なる食事は壮健さを維持し、やる気をも生み出すもの。
なるほど、糧食の開発を第一とした総帥の判断は実に正しい!
これ以上に的確な判断と指示が、この世にあろうか?
いや、ない!
セバスティア
セバスティア

もしや、天才なのでは。そう思う事は、これまでに多々ありましたけれど……

セバスティア
セバスティア

総帥の才覚を表すには天才との言葉ですら、まったく足りておりませんの!

その後、セバスティアによりアミルカルの命令は十全に実行された。
イタリアーナ軍の兵たちは、自身らのために極上の糧食
を用意しようとする総帥に心より感謝した。
イタリアーナ軍はこうして進軍を開始するその日まで、
全力で軍用食の開発に取り組んだ。
イタリアーナ軍のレーション開発に向かう熱意も、
開発陣営の層の厚さも、他の軍とは一線を画していた。
代償として新兵器の開発や他国の装備の研究の進みは遅々としていたが、
それはイタリアーナ軍にとって至極瑣末な事であった。