少女A
少女A

すー……

少女B
少女B

はー……

少女A少女B
少女A&少女B

すー……はー……

震える手…………震える唇…………身体をひんやりと冷やす汗。
緊張で荒くなりそうになる息を落ち着けるように深く息を吸いこむ…………
最も栄光の光に満ちた者……
最も光から遠い者……
スカンディナヴィアを支える英雄たち…………
少女A少女B
少女A&少女B

きた!

一瞬覗いた鋭い光……それを見逃すことはなく、一気に集中力を高めていく。
少女A少女B
少女A&少女B

いつものように

少女A少女B
少女A&少女B

仕事をするだけです……(空とひとつになるだけですぅ)

…………
……
スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

今……なんと言った!!!

ギリギリと奥歯を鳴らし、スカンディナヴィア元首は、目の前にいる女を睨みつける。
足を組み、その膝の上で両手を組んだ女はソルビエス外交官……
ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

もう一度言ったほうがいいか?

その慇懃無礼な物言いに、スカンディナヴィア国家元首の顔が真っ赤に染まる。
スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

言ってもらおうかっ!

更に強く睨みつけるが、外交官は眉根ひとつ動かすことなく受け流す。
ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

同士ヴィルサリオよりの伝言だ

そう言って、ニヤリと笑み言葉を続ける。
ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

我々ソルビエスは、スカンディナヴィアに対して領土の割譲を要求する。この申し出を断るのなら、我々はスカンディナヴィアへの侵攻を本格化する

スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

バルト三国の国々を編入しただけでは収まらず、我々にまで手を伸ばそうというのかっ! 私に国民を……国家の基盤を見捨てろというのかっ!

ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

国民を見捨てるというのは、勝てもしない戦に国民を巻き込むことを言うのだ。割譲を受け入れれば、その地域の者たちは我々のもとで幸せに暮らせる

スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

貴様らの正当性のない支配を受け入れることが、幸せなどであるものかっ! 社会主義で幸せになる者などいるわけがあるか!

そう言って、もう一度強く、強く机を叩く。
ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

一元的な見方でしか考えられないなど、あまりにも愚かなことね……ふぅ

ため息をつきながら、見くだすような視線を送る。
ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

我々は理想的な社会主義国家を設立している。あなたたちの国が追い詰められているのが、何よりの証拠ではないか?

そう言って口角を持ちあげる。
理想的な形で形勢された社会主義国家は、最強の政治体制とも言える。
しかし、それは理想どおりに形作られているかぎりにおいてだ。
皆が平等である社会主義体制は、競争原理が働きにくい。
結果として向上心を持たない者が増え、国家全体の活力がさがり、
無気力という重い病におかれてしまう。
それを知っているからこそ……ソルビエスに屈するわけにはいかなかった。
スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

我々は、ソルビエスに屈することはない! 絶対に……だっ! そうお前たちの国家元首に伝えよっ!

ソルビエス外交官
ソルビエス外交官

そう、わかったわ。その言葉、必ず後悔することになるでしょう……失礼するわ

立ちあがったソルビエス外交官は、頭をさげることもなく会議室をあとにする……
国家元首は姿が見えなくなるまで睨んだあと……ドサリと椅子に座りこむ。
ゆっくりと目を閉じ……手を机のうえでしっかりと組む。
スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

我々は負けるわけにはいかないのだ…………

窓の外、遠くに見える雪原の白と空の青の境界……地平線をじっと見つめる。
スカンディナヴィア国家元首
スカンディナヴィア国家元首

頼んだぞ、イルス、シムナ……ふたりの英雄たちよ………………

そのはるか先……最前線にいる英雄たちに語りかけた……
…………
……
イルス
イルス

いましたぁ!

イルスは愛機であるブルーステル――BW-364号機――の中で声をあげた。
太陽光を反射しキラリと光る敵機であることは間違いない……
イルスは手信号で僚機に指示をだす。
イルス
イルス

テッキ ヲ ヒダリ ナナメ ゼンポウニ ハッケンスワレ ノ アト ニ ツヅケ

イルス
イルス

すーーー…………

大きく息を吸いこんだイルスは、操縦桿を一気に倒す!
機体が横滑りしないよう注意をはらいラダーを操る。
Gによる圧力で機体が軋み……身体が急激に重くなる。
それでもイルスは呼吸を止めたまま、一気に敵機に近づき背後へと回りこむ。
僚機の二機も続こうとするが、イルスの軌道にはついていけず、大回りになってしまう。
敵機は遅れてイルスたちへと気がつき、
イルスたちに背後をとらせまいと高機動をかけて旋回をはじめる。
イルスはその動きをしっかりと見極め、詰め碁のように背後へと回りこむ。
イルス
イルス

すみません……とらえましたぁ

それまで意識して外していた引き金に手をかける……
…………
……
シムナ
シムナ

いた……

白いギリースーツに身を包み、愛用のデグチャレフに取りつけたスコープを覗く……
シムナ
シムナ

ひとり……ふたり……さんにん………………十二人…………BTが三台…………

シムナ
シムナ

すーーー…………

大きく息を吸いこんだシムナは、セーフティを外し、引き金に手をかける……
イルスシムナ
イルス&シムナ

祖国のため……スカンディナヴィアを守るためです

シムナの見つめる先――
ソルビエス兵A
ソルビエス兵A

うぅ……寒い……

警戒を怠らないよう注意しながら、ソルビエスの小隊が進む……
スカンディナヴィアに入って数日が経つ……
しかし、スカンディナヴィア兵たちとの接触はないままだ。
ソルビエス兵B
ソルビエス兵B

だな……飲むか?

ソルビエス兵A
ソルビエス兵A

ああ、ありがとう

差しだされたボトルを受けとった兵は、クイッと一気に煽る。
カッと身体の中が熱くなり、寒さを一時的に和らげてくれる。
ソルビエス兵A
ソルビエス兵A

まったく……スカンディナヴィアの奴らはどこにいるんだ?

ソルビエス兵B
ソルビエス兵B

もう全滅したなんてことはねーだろうな

ソルビエス兵A
ソルビエス兵A

ははっ、あるかもしれねーぞ。うちの先遣隊ならやってくれるかもしれねーな

ソルビエス兵C
ソルビエス兵C

そんなわけあるわけねーだろ。いいからもっと集中しろっ! 奴が……白い死神が現れるかもしれないぞ

ソルビエス兵A
ソルビエス兵A

白い死神?

ソルビエス兵B
ソルビエス兵B

ああ、あの噂か……PTRD1941を使うスナイパーの噂だろ

ソルビエス兵C
ソルビエス兵C

そうだ……奴は、はるかかなたから正確無比にヘッドショットを決めてくる……こちらが、その姿を見つける前には、隊は全滅しているそうだ

そう言って、ぶるりと身体を震わせる。
ソルビエス兵A
ソルビエス兵A

おいおい、そんな噂を信じているのか? お前PTRD1941を撃ったことあるのかよ? あんなもんで正確に人を射抜けるわけ――

ソルビエス兵B
ソルビエス兵B

…………えっ?

自分の身体へと飛んできた血を……肉片を拭う…………
現実が理解できずに……呆然と……その塊を見つめていると……
ソルビエス兵C
ソルビエス兵C

…………や、奴だ! し、白い死が――

ソルビエス兵B
ソルビエス兵B

…………ひぃっ!? や、やつだっ!? し、白い死神がでた――

その報告を遮るように、戦車を打ち抜く鈍い音が響き……
一台の戦車が燃えあがる。
ソルビエス兵B
ソルビエス兵B

本当……本当だったんだ……に、逃げろっ!

雪の中を逃げようとする兵たちだが、雪に慣れたソルビエス兵といえど、
取り乱した状態では、そのいく足を阻まれてしまう。
その間にも、もう一両の戦車が燃えあがる…………
悲鳴をあげる間も無く兵は次々に倒れていく…………
そこは……地獄絵図となっていく……
…………
……
三機編隊の一機を照準にとらえたイルスは……
イルス
イルス

当たれぇ

想いをのせるかのようにつぶやき銃口をひく!
イルスに追われている機体の中――
ソルビエスパイロット
ソルビエスパイロット

くっ!?

イルスの放った12.7mm機関銃が、羽根から胴体を横に凪ぐ……
ソルビエスパイロット
ソルビエスパイロット

まだ……落ちはしないっ!

そう言って振り切ろうと急旋回をかけようとした時……
ソルビエスパイロット
ソルビエスパイロット

くっ!? エンジンにっ!?

燃えあがるエンジンにパイロットは、その死を覚悟する。
ソルビエスパイロット
ソルビエスパイロット

う、うわぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁ!?

イルス
イルス

ひとつ……

落ちていく飛行機を見たイルスは声をあげると、すぐに他の二機へと視線を向ける。
イルス
イルス

すぅぅぅー…………

迫りくるGに耐えるよう、イルスはもう一度呼吸を整える。
一機に目標を絞り……軌道ルートを思い描きながら、その後背をとろうと動きだす。
いつもの仲間が、もう一機は牽制してくれるはず……
僚機と共に敵機を追いかけ、残りを追いこんでいく……
…………
……
スコープの先には、燃えあがった三台の戦車と死体の山……
シムナは軽くうなずき横たえた身体を起こす……
イルスシムナ
イルス&シムナ

状況クリア……帰投する

勝利を得たふたりはそれぞれの基地へと戻っていく。
その裏で、行われたソルビエスとの交渉を知ることなく……
…………
……