みな、集まってくれたこと、うれしく思う。私は――
アンリ・メジエール大佐がこられました
遅くなり、もうしわけございません。国境のほうへ行っていたため、時間がかかりました
こちらこそ急な呼び出しをしてすみませんでした。座ってください
今の時点で、私を呼びだすということは、それほどの緊急事態と考えてよろしいですか?
プロイセンが行った侵攻により、現在欧州各国は未曾有の危機にたたされています。すでにポスポリタ、ネーデルランドは陥落し、その自治を奪われています
はい、私もそのために、国境を固める準備をしていました
それだけではないのです……まだ正式な情報ではありませんが、フランセーヌも一両日中に、その首都が陥落することになりそうです
本当ですかっ!
我々の国境はすべてプロイセンに抑えられてしまいます……完全に世界から孤立することになります
はい……連邦政府は、あらためて武装中立国家の宣言と同時に国家非常事態宣言を発することにきめました
私を代表とした委員会で、迅速な国家運営をおこないプロイセンとの戦いを進めます。そうしてアンリ、あなたに最高司令官をお願いしたいと思います
条件があります。軍の実戦指揮の権限を政府、議会、委員会から完全に独立をさせ、最高司令官に集中することをお願いします
シュイスの国益に反しないかぎり約束します。ただし国益に反すると判断した場合、あなたを即時解任します。いいですね
それは当然です。それともうひとつ、建国の地にて演説の場を用意いただきたい
それはすぐに用意しましょう
どうやら嘘はないようで、安心しました
アンリ・メジエール大佐、最高司令官の役職を拝命いたします
みな、集まってくれたこと、うれしく思う。私はアンリ・メジエール将軍。国家非常事態宣言を受け最高司令官となり、軍を率いることになった
今、欧州は未曾有の危機に直面している。プロイセンによる軍事侵攻は、周辺の国を飲みこみ、いまだ勢いを弱める様子はない
すでに第一共和国はプロイセンにより併呑され……イタリアーナはプロイセンと関係を強め、歩みを共にしている
ポスポリタ、ネーデルランドの首都が陥落し、プロイセンの恐怖による統治がはじまっていることは、みなの知ってのとおりだ。そうして…………
私のルーツであるフランセーヌも……その荒波に飲みこまれ、つい先ほど首都が陥落したという一報がもたらされた
それぞれにルーツはあるものだ。シュイスにはプロイセンをルーツを持つ者も多く、プロイセンに協力を望む者も少なくないのも知っている
それぞれのルーツを大切に思う気持ちは大切だ。しかし考えてほしい! 先人たちがどうしてこの地に集い、シュイスを永世中立国としたのかを!
その理想を形作るため、どれほどの労を……戦いを重ねたのかを……
先人たちが汗を……血を流し、勝ち得た中立の心を絶やすこと……それは即ち、自らのルーツを穢すことになるのではないかっ!
先人が築き、守ってきた自主独立の精神と永世中立を堅守することを、シュイスの礎となった先人たちに誓うことを私は宣言する!
アンリー!
シュイスー!
ふぅ……
これで……シュイスがひとつにまとまればいいが……
…………入ってくれ
おつかれさま……アンリ
あなたか……議長
くすっ……ここは、公の場ではないわ。昔のように、名前で呼んでくれないの?
さて……どんな名前でしたか……
あら、寂しいわね……くすっ…………でも助かったわ。あなたの演説で、みんながひとつにまとまりそうよ
そうですか……
演説を聴いて確信したわ、あなたは政治家に向いているわよ……どう? 今からでも
よしてください……私はあなたたちみたいに、笑って嘘をつけるほど器用ではありません。隠れて嘘をつけばいい戦争くらいが関の山です
あら、ひどいわね。まあいいわ……でもこの戦争で私が命を落としたら、その時は――
あなたの命は、私が……私が絶対に守る! 絶対にだっ!
ふふっ……期待しているわ。アンリ……
これは?
国境封鎖と山間部の要塞化の計画書です……敵の侵入を許した時には平地を引きあげ、山からの反撃をする拠点を築きます
そう……これはすぐにすすめていいわ。委員会には私から根回ししておく
よろしくお願いします。私はすぐに国境の封鎖の様子を確認しにむかいます。失礼します
よろしくお願いね……アンリ……